今回紹介する論文は直訳すると「収量構成要素の観点からの日本の温室キュウリ研究の評価」です。
この論文は全文英語で書かれていますがReviewになるので、実験をして得られた結果に対する考察を述べるような構成ではありません。
これまでの研究結果を項目ごとにまとめているような内容です。
また、紹介する内容は簡単なものになりますので、深く読んでいきたい方は下記のリンクから論文をご覧ください。
それでは論文を読んでいきましょう。
A Review of Japanese Greenhouse Cucumber Research from the Perspective of Yield Components
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hortj/90/3/90_UTD-R017/_article
概要
本論文の目的は下記のようになっています。
現在のキュウリは15年前と比較して栽培面積および収量が共に減少しているので、収量構成要素の観点から環境要素と仕立て方に関する先行研究を再考してみよう。
上記の目的の下、各要素ごとに先行研究を見直していくのが本論文の内容となっています。
そして、本論文は日本の施設園芸キュウリにおける3つの要素に焦点を当てて書かれています。
1. Yield components(収量構成要素)
2. Environmental factors(環境要素)
3. Training methods(仕立て方)
若干説明が足りないと感じる部分が各項目ごとに見受けられるので、その際は本論文から先行研究を読んでみてください。
※本記事では文字数の都合上、Fureture researchを割愛しています。
それでは、簡単な内容を要素ごとに紹介していきましょう。
Yield components(収量構成要素)
収量構成要素は下記の図のように階層的な構造を有していて、下層の要素が上層の要素を決定します。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hortj/90/3/90_UTD-R017/_article
上記図の関係性が少しわかりづらいので例を挙げます。
例. Fruit dry matter content(果実乾物含量)の増加が収量増加に影響したと結論付けるためには下記のようにしていきます。
収量差が見られる複数の品種または処理方法において
・Fruit dry matter contentが異なることを確認
・同じ階層のFruit yield dry weight(乾物収量)に違いがないことを確認
・上層のFruit yield fresh weight(新鮮果実収量)が増加していることを確認
つまり、上記の図に基づいて各要素を確認していけば、どの要素が収量増加につながったのかを明らかにできるということです。
Environmental factors(環境要素)
日本の施設園芸キュウリでは、環境制御と収量の関係は未だ不透明な部分が多く、収量増加に影響している収量構成要素を特定するのは難しいのが現状です。
しかし、少なからず環境要素に関して定量分析等も行われているので、環境要素における先行研究結果に関して再考してみましょう。
※先行研究の内容は本記事では割愛します。
Temperature(温度)
収量構成要素の観点から見たときに先行研究結果をまとめてみると
- 日平均温度はLAI(葉面積指数)やIntercepted light(受光量)に影響を与える
- 日平均温度が変わらなければ新鮮果実収量は変わらない
- 日平均温度は乾物生産量に影響する
- 温度によってFraction to fruits(果実への分配)は変わる
上記の結果が得られています。
日平均温度を上昇させた先行研究結果の一例を見てみると、
- 発育速度が高まって葉の展開速度が促進し、節数が増えていくことで
- LAI(葉面積指数)が増加する
- Intercepted light(受光量)が増加する
上記のような収量構成要素の増大から収量が増えることが予測されます。
しかし、日本ではエネルギーコスト削減のため最適温度よりも低く温度管理されていることから草勢の低下やLAI管理が難しいので、温度とコストのバランスを取りながら管理することが必要となってきます。
Humidity(湿度)
収量構成要素の観点から見たときに先行研究結果をまとめてみると
- 0.3[kPa]~0.9[kPa]のVPD(飽差)は果実乾物含量に影響しない
- 35[℃]時で相対湿度が60[%]以上の時、乾物生産量と葉面積は増加した
- 30[℃]で相対湿度60[%]時より25[℃]で相対湿度40[%]の方が側枝が促進し、収量が増加した
上記の先行研究結果から、低湿度でも収量が増加する結果が得られたため、現在日本で行われている高温度・湿度の栽培は適正な環境条件ではない可能性が示唆されました。
そのため、乾物生産量における湿度の影響を分析していく必要があります。
CO2
収量構成要素の観点から見たときに先行研究結果をまとめてみると
- CO2濃度が200[ppm]~1100[ppm]までは果実分配率と光利用効率は10[%]~15[%]増加した
- CO2を500[ppm]7時間か1000[ppm]3時間を施用すると無施用と比較して収量は39[%]~55[%]増加した
- 25[℃]相対湿度70[%]~80[%]時にCO2を800[ppm]で施用した際、光利用効率は11[%]~19[%]増加した
上記からもCO2施用はキュウリ栽培における収量増加に有用であるという結果が得られた。
しかし、キュウリ栽培では様々な場面(曇天や幼若期等)が考えられるので、受光量を確保しながら適切なCO2施用をすることによって乾物生産量に関する環境要素を整えることが重要です。
Irrigation & Nutrition(灌水&養分)
灌水管理の問題として下記が挙げられます。
- 土耕栽培では土壌の物理・化学・生物性の違いから作物の生長が異なる
- pFメーター等を使用した管理も増加しているが、土壌環境に関する基準が明らかではない
したがって、環境情報と生物情報に基づいた植物の灌水管理が定量的に決定できるモデルの開発が重要です。
一方で、養分管理に関する問題点は下記が挙げられます。
- ブルームレス台木はケイ素含有量が少ないことから、結果的に病害虫に弱くなる
- 養液栽培に注目が集まってきているが、ほとんどの品種が収量よりも耐病性や水分欠乏耐性を重要視された土耕栽培用である
そのため、ケイ素含有量を保ちながらブルームが発生しないケイ素施肥の範囲を決定するか、ブルームが発生しない品種を選ぶことが必要です。そして、溶液栽培に関する収量および生産性向上のための品種研究が必要となっています。
Training method(仕立て方)
仕立て方にはの摘心栽培とつる降ろし栽培の2種類あり、これらを収量構成要素の観点から見てみると、
- つる降ろし栽培は果実数の増加、受光量の増加、LAIの増加が収量増加につながる
- 摘心栽培の方が合計乾物量と果実分配率が高かった
- 摘心栽培の方が吸光係数が低く、光利用効率が高い
上記先行研究結果から見ると、摘心栽培の方が高収量になるといえます。
一方で、先行研究では短期間で行われた先行研究であり、かつ、つる降ろし栽培が短期栽培には適していないかもしれないという先行研究結果も得られています。
そのため、長期栽培に関する栽培方法を考えていく必要があります。
ちなみに、つる降ろし栽培と摘心栽培の労働時間に関しては、下記のような結果が得られました。
- 果実1本当たりの収穫時間はつる降ろし栽培(8.0[s]~11.7[s])の方が摘心栽培(8.8[s]~12.3[s])よりも短い
- つる降ろし栽培は摘心栽培よりも合計労働時間が10[%]増加する
本論文に対する感想
Reviewということもあり説明が簡略化されているので、先行研究の内容があまり書かれていない部分が多かったです。
そのため、先行研究を見ないとわからない部分が多く、本論文だけでは理解するのがとても難しかったです。
先行研究を見ながら本論文を読んでいくのは面白いですが、本論文だけを読むのはあまりお勧めできません。
また、各項目毎に説明が足りないと感じた方々は、下記リンクから本論文の先行研究も読んでみてください。
おすすめ度:
A Review of Japanese Greenhouse Cucumber Research from the Perspective of Yield Components
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hortj/90/3/90_UTD-R017/_article